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MongoDB × WebLLM ③/実機検証

2つの実機で
WebLLM ログ分析は実用になるか

動く、と、使える、は違う。Pixel 10 Pro と iPad mini A17 Pro で実測しました。 同じモデルなのに生成速度が8倍違う衝撃、初回DL 533秒の壁、そして「速くても間違える」品質問題。 初回DL・生成速度・品質の3軸で、どの端末でどのモデルが実用かを見極めます。

Pixel 10 Pro iPad mini A17 Pro decode 8× 初回DL 533s 実機ベンチ

[ § 0 ] 導入

動く、と、使える、は違う

2本目で、WebLLM は「動いた」。集計JSONを日本語に翻訳できました。 でも「実用になるか」は、まったく別の問題です。

実用の条件は3つ。待てる初回DL許せる生成速度信頼できる品質。 これが揃って初めて「使える」。2つの実機で、これを数字にします。

[ § 1 ] 測定セットアップ

何を、どう測るか

2つの実機は、GPUアーキもブラウザも違います。Pixel 10 Pro(Android Chrome)と iPad mini A17 Pro(Safari)。ここで同じモデル・同じプロンプトを揃えて測ります。

3つの指標

LOAD TIME(初回DL+GPU展開/キャッシュ後は短縮)、 PREFILL(入力処理 tok/s)、 DECODE(生成 tok/s=体感速度)。加えて品質を、2本目の4段階評価で見ます。

量子化は q4f32_1 を選んだ。 すべて 4bit量子化・fp32演算(q4f32_1)に揃えています。これは前編で Pixel 10 の fp16 埋め込みが NaN を返した教訓から。モバイルGPUでは、fp16 が罠になることがあります。 「条件を揃える」のは、TF.js 記事の normalize と同じ思想です。
[ § 2 ] 発見①

同じモデルで、速度が8倍違う

最も衝撃的だったのがこれです。まったく同じモデルなのに、端末で生成速度が8倍違った

decode = 生成速度 tok/s(大きいほど速い)/ 横断ベンチ・q4f32_1
モデルサイズiPad decodePixel decode倍率品質
Qwen 0.6B315MB39.84.98.1×思考が漏れる
Qwen 0.8B420MB22.63.07.5×やや不正確
Qwen2.5-1.5B787MB21.82.68.4×★品質良好・最安定
Qwen 1.7B892MB20.817.51.2×多言語で崩壊
DECODE SPEED — iPad vs Pixel(同一モデル・同一量子化)
iPad mini (Apple GPU)Pixel 10
⚡ Qwen2.5-1.5B の decode 速度
iPad mini: 21.8 tok/s(サクサク読める)/ Pixel 10: 2.6 tok/s(1文字ずつ待つ体感)
差は 8.4倍。Pixel の 2.6 tok/s は、実用に耐えるレベルではありません。

なぜ Pixel 10 はこんなに遅いのか

これは TF.js 記事やティックベンチで見た「GPUアーキの差」と同じ根です。 WebGPU の効き方は端末で大きく異なり、Pixel 10 は WebLLM のワークロードと相性が悪い。 同じコード・同じモデルでも、GPUが変われば体感がまるで別物になります。

面白い例外:1.7B の逆転

唯一 1.7B だけ、Pixel が 17.5 tok/s と急に速くなり、差が 1.2倍に縮みます(小型では 2.6〜4.9 だったのに)。特定のモデル構成で Pixel 10 のカーネルが効く瞬間がある——モバイルGPUの不可解さが、ここに出ています。ただし 1.7B は品質が「多言語で崩壊」で、速くても使えません。

[ § 3 ] 発見②

初回DLという、税金

速度と並ぶもう一つの壁が、初回ダウンロードです。iPad mini(Safari・LTE)で実測した cold ロードは、 モデルサイズにほぼ比例して膨らみました。

初回DL(cold, iPad / LTE)— モデルサイズに比例
⏱ 初回ロード(cold・LTE)
Qwen2.5-0.5B(262MB): 247.5s/ Llama-3.2-1B(525MB): 533.5s
サイズが2倍になると、DLも約2.16倍。1B で 533秒(約9分)は、UXとして重すぎ、初回離脱の懸念大です。

注意すべきは、この数字が回線とキャッシュで激変すること。同じ 0.5B でも、条件が良ければ 10.5秒で載りました。2回目以降はブラウザキャッシュ(IndexedDB)からほぼ即時。 つまりDLは「初回だけの税金」ですが、その初回が数分では、多くの人が離脱します。

2本目の地雷、再び。 DL中にタブをバックグラウンドへ回すと、ロードが中断します。LTE 環境では 1.5B のDLが完了せず失敗しました。 初回DLはフォアグラウンド保持・Wi-Fi推奨——実機ならではの運用注意です。
[ § 4 ] 発見③

速くても、間違えたら意味がない

iPad は速い(0.5Bで47 tok/s)。でも、その速さで何を生成したかが問題です。 小型モデルに「WebLLMとは?」と一般知識を聞くと、露骨に破綻しました。

0.5B / 1B の実際の出力(iPad・実測)

0.5B は「WebLLMは大規模文書解析システムBERTと配合したAI」「2023年4月に初版」と堂々と作話。 1B は「Web LLMは、パズル、ラッセ…、パーソル化された…」と同語反復で崩壊。 速度は申し分ないのに、内容は信用できません。

2本目の「集計JSON解釈」タスクでは 1.5B が実用でした。一方この一般知識タスクは、より露骨に破綻する。 品質はタスク依存でもあり、モデルサイズ依存でもある。そして品質は、端末(GPU)を変えても改善しません—— GPUは速度に効くが、賢さには効かない

擬似生成という、基準線。 2本目で見たとおり、集計JSONからの決定的な擬似生成は瞬時かつ正確。 つまり評価軸はこうです——「LLMは、この擬似生成の基準線を超える価値を出せているか?」。 速いだけ・流暢なだけでは、基準線を超えません。
[ § 5 ] 総合判定

どの端末で、どのモデルが実用か

3軸(DL・速度・品質)を掛け合わせると、実用の地図が描けます。

端末\モデル0.5B1B1.5B擬似生成
iPad mini
Pixel 10

◎実用 / ○条件付き実用 / △速いが品質難 / ✕遅い・非推奨

推奨構成

結論はシンプルです。既定は擬似生成——全端末で即座に、正確に要点を返す。 その上で、オプションで 1.5B を「iPad など速いGPUで、載れば表現が豊かに」。 これは2本目で組んだフォールバック設計そのもの。実測が、あの設計判断を裏付けました

[ § 6 ] 体感デモ

実機ベンチと、実用の地図

速度×品質の散布図で「擬似生成が基準線」を確かめ、任意でこの端末での decode 速度も測れます (実WebLLM対応環境のみ・初回はDL)。

Interactive · Speed × Quality map
速度×品質の地図 + 実機計測
散布図は実測に基づく参考値。右上ほど「速くて正確」。擬似生成が基準線です。実機計測は要WebGPU・初回DLあり。
速度(横)× 品質(縦)— 右上が理想
環境を確認中…
実WebLLM対応環境なら、1.5Bを1回だけ動かして decode 速度を測り、散布図に「この端末」として重ねます。

散布図の右上——瞬時かつ正確な擬似生成が、越えるべき基準線です。0.5B は右下(速いが低品質)、 1.5B は上方(正確だが遅め)。あなたの端末で 1.5B を測ると、この地図のどこに乗るかが分かります。

[ § 7 ] まとめ

非力から始まった委譲は、こう着地した

動く≠使える。初回DL・生成速度・品質の3軸で見ると、WebLLM ログ分析の実用ラインがはっきりしました。 GPUは速度に効くが品質はモデル依存。実用下限は 1.5B、基準線は擬似生成。 そして端末差は残酷なほど大きい(decode 8倍)。

この記事のまとめ

  • 同じモデルでも decode が端末で8倍差(iPad 21.8 vs Pixel 2.6 tok/s)。Pixel 10 は WebLLM と相性が悪い。
  • 初回DLはサイズに比例し1Bで533秒。回線依存・要フォアグラウンド。初回離脱の懸念。
  • 小型は速くても作話・崩壊。GPUは速度に効くが賢さには効かない。
  • 実用の地図:擬似生成が全端末◎の基準線、1.5Bはapple GPUで条件付き実用。
  • 既定=擬似生成、オプション=1.5B。2本目の設計を実測が裏付けた。
MongoDB × WebLLM 連載 — 総括
  1. 集計API — MongoDBは答えだけを返す
    サーバー:生ログを出さず集計JSONだけ
  2. ブラウザが推論を引き受ける
    クライアント:WebLLMで言語化+擬似フォールバック
  3. 2つの実機で実用になるか(この記事)
    検証:8倍差・533秒DL・品質、実用の見極め

「非力なVPSに載せられないから、クライアントへ逃がす」——そう始めた委譲は、実機でこう着地しました。 逃がした先のGPUにも、大きな当たり外れがある。だからこそ、擬似生成という揺るがない土台を持ち、 LLMは載れば彩りを添える。制約から出発した設計が、実測でその正しさを示した連載でした。

『2つの実機で — WebLLM ログ分析は実用になるか』を公開しました。